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放草:第二回 人に反応する植物

 

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さて、前回の講義で疑問に思われた方がいるかもしれない---放草は果たして人の会話や思考を理解しているのか?研究価値のあるテーマだが、この前述べた通り、放草関連の研究は進まないという特徴がある。故にその問いに対する答えはまだ出ていないが、関連して興味深い報告事例があるので、少し時間を割いて紹介したい。

2019年末からCOVID-19と呼ばれる感染症の世界的流行が発生した。感染を抑制するため人は各種活動を自粛するようになり、それまで観光地や歓楽街として栄えていた地域は閑散とした。それと同時に、劇的な人口減少を見た地域で、奇妙な現象が確認されるようになった。俗称「不要不急草」と呼ばれる植物の出現である。スライドでいくつか写真をお見せしているが、このように、直径15cmほどの紫色の鮮やかな花をつける。インターネット上でセンセーショナルに取り上げられるようになり、身近なところでこれらの花を探しにいく人たちが相次いだ。

しかしこの植物には嫌な特徴があった。不要不急草は人間が近づくと跡形もなく消えてしまうのだ。具体的には、多少の誤差はあるが、その植物のおよそ2m以内に人が侵入すると、植物体が強烈な異臭を発して”自爆”し、跡形もなく消失してしまうのである。不要不急草は人に反応しているようだったのである。

放草と同じく、生息地には国や気候による分布の偏りはなかった。ただ生息地には共通の特徴がある。①、人が元々いなかった地域では、不要不急草は目撃されなかった。②、COVID-19の収束宣言が出されて人々の行動が完全に元に戻ったとき、人々が戻った先では不要不急草はほぼ確認されなかった。

これらの研究を真に受けるならば、不要不急草は人の在・不在だけではなく、COVID-19の感染の広がり具合も何らかのかたちで感知していたということになる。ただ、生息域に関する研究成果は文献調査にとどまっており、相関関係を指摘しているのみで因果関係の解明には至っていないことは指摘しておかねばならない。

なぜ人が接近すると消えてしまうのか?諸君もそこに関心をお持ちだと思うが、残念ながらその点は解明されなかった。人との相性が悪いことに加え、サンプル等の取得を試みられる前に一般市民によって植物体が消されてしまったのも痛手だった。あるのは証明されることのない仮説が一つだけだが、一応紹介しよう。不要不急草は人が持つウイルスに弱いため、人に近づかれてしまった個体は自爆し異臭を放つことで人を退かせ、近傍にある他の個体を守る、という仮説である。そのウイルスとはつまりCOVID-19な訳だ。

さて、ここまでの情報をどう整理しようか?私の持論だが、不要不急草はCOVID-19に接触して全世界で同時発生した突然変異種と考えている。そうすれば、人がもともといた地域でしか不要不急草が目撃されなかったことが説明できる。また、COVID-19に対してこの突然変異種が脆弱であったとすれば、感染症が蔓延しきった後は種として存続できなかったことも説明はできる。

不要不急草の目撃数はCOVID-19事態の収束と共に少なくなり、ここ数年は報告事例が皆無である。絶滅という言葉が当てはまるかは定かではない…2018年以前の報告が存在しないからである。こんな短期的なものを種と呼べるのかは定かではない。それに対する答えもまた、不要不急草と一緒に消えてしまった。

不要不急草は種としては存在しないかもしれないが、学術界に与えた影響は大きかった。不要不急草の発見以後、植物が人の存在を何らかの方法で感知するという事実は、植物学界隈に違和感なく受け入れられるようになった。放草という摩訶不思議に対する心理的抵抗が、不要不急草によって少し緩和されたと言ってよいだろう。

 

<続く>

<けどいつ続編を書けるかは分からない>