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カチカチ様【2/2】

sourceone.hatenablog.com

 

私たちの村は、カチカチ様とある契約をしている。カチカチ様は山の清水で私たちの田を潤し、毎年豊作を約束してくれている。それと引き換えに、毎年、我々の中から選ばれたものが一人、薪を持ってカチカチ山に登る。原則、村で最高齢の者がその役を司るが、悪事をはたらいた者がいた場合、懲罰としてその山登りをさせることが私たちの慣習となっている。

俺と兎の間の火がカチッ、と弾けた。兎とその顔は少し後退した。今年は珍しく悪さを働く者がいなかったのだ。君が殺したあの老人…あの老婆は村の最高齢の女だった。明日はカチカチ山に登る予定だった女を、君が殺したのだよ。だから君はその老婆の代わりに山を登るのだ。

俺は内心安心した。山を登るだけなのだ。兎は続けた。カチカチ様は火がお好きだ。我々がカチカチ様と契約をするまでは、カチカチ様は頻繁にその頂から火を噴き、その度に我々の田畑は荒れた。カチカチという音は、そんな時に麓の屋根に降り注ぐ小石の音から来ていると伝えられている。だから我々は毎年、炎を使い、カチカチ様に美しい演舞を見せて差し上げるのだ。山に登る者は、頂上に着いたら、持参した薪に火をつけ、舞を奉納する。それが最後の儀式となる。明日登るときにその作法を知ることになるだろう。

兎は微笑んだ。俺の安堵の背後に回り込む微笑みだった。何か聞かされていないものがある、警戒しろと直感が俺を詰った。しかし俺にはその時追求する力は残っていなかった。

山登りを始めたものの、兎は何も俺に語らない。黙ったまま先を歩いていく。おい、と俺は声をかけた。踊りとやらなんやらの説明はないのか?兎は振り返った。教えるのでは私ではないのだ。最後の儀式はカチカチ様のためだけにある。

最後の儀式、火の演舞。炎舞。薪。まさか、俺は生贄なのか…?

背後から、カチカチ、という音がした。俺は焦った。俺は叫んだ。俺は走った。兎の姿は既にどこにもなかった。