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放草:導入編

放草という「草」がある。近くにいるヒトの考えていることを音声として花から出力するという特異な性質を持つ。この特性は花から半径1メートルくらいの範囲で有効で、その範囲にヒトが侵入し一定時間留まると、そのヒトの思考が花から放送されてしまう。複数のヒトがその周囲にいる場合は最も近いヒトの思考が放送されるようだ。これを「放草現象」といい、この特異な性質のことを「放草効果」と呼ぶ。

この花・現象は芸術家たちの想像を掻き立ててきた。例えば、想いを寄せている相手に放草の花を混ぜた花束を渡すということが物語のなかで頻繁に試みられる。拷問に使われることもあれば、各種の誓いに使われることもある。その結果破滅的な結末を迎える場合も少なくはないが、これは花のせいというよりはヒトのせいである。

しかし、こうした人為的な利用が空想の世界に留まっているのには理由がある。放草現象を日常で経験する人は非常に多いが、植物の生態は全く分かっていないのだ。実を言うと植物なのかどうかすら定かではない。何らかの花が咲いている場所で放草現象が起きること、かつその音声が大抵は下の方から聞こえてくることから、草本の花ではないか?ということになっている。先述の1m以内の最も近い人という情報も、市民の間で経験的に知られていることに過ぎない。

物語の中では放草は白いテッポウユリというかたちで描かれることが多い。白がニュートラティーを象徴すること、花の形状からスピーカーが連想されることが由来であろう。しかし放草という種の特定はできていない。日本で最初に放草効果が確認されたのは2000年のセイヨウタンポポの事例であったが、放草効果を発動しうる種は世界各国で毎年新たに発見されており、種・生域・季節などによる統計的に有意な差は見つかっていない(強いていうなら放草はヒトがいるところでしか確認されていない。当たり前だが)。放草効果を獲得し得ない植物はないとすら言われている。そんな中で最も有力なのがウイルス説だ。特定の花に放送効果が現れるのではなく、ウイルスに感染した花のみが放草効果を獲得するという仮説である。ただし、当のウイルスは発見されていない。

種や地域が限定されないことに加え、放草効果の発動が予測不可能であることにも触れなければならない。一度だけしか放草効果が発揮されないこともあれば、繰り返し発揮されることもある。全部の思考が放送されることもあれば、一部のみのこともある。放草効果の利用価値は高いが、今はその予測不可能性ゆえに利用される存在ではなく嫌われる存在となっている。国家首脳間の会議や機密情報に関する会議は、植物の一切ない空間で行われるのが慣例となっている(なお、造花では確認されていない)。

このような複雑な事情から、放草や放草効果の研究はあまり進んでいない。研究者の思考が生放送されてしまい、研究上必要な人間関係が研究が終わる前に壊れてしまうからとネットでは揶揄されている。本当のことは、誰も知らない。そう考えられていた。

  

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