ある処方箋
「次の方どうぞ。」
「先生どうも、お久しぶりです。」
「本当に久しぶりですね。半年くらい見えてないのでは?どうかされたんですか?」
「はい...この期に及んで、薬が効かなくなってきまして。特にここ数日はどうしようもなくて、そろそろ別のをもらったほうがいいかなと。」
「確認しますね...ああ、Dさんには前回『読書』と『資格勉強』を処方していましたね。半年分ですから、ちょうどそろそろ尽きたころですね。」
「そうです、まだ少し残ってるんですが、効き目が薄れてきている気がして。」
「とりあえず心音聞かせてください。」
「…」
「んー、至って普通ですね。体に異常は感じてないですか?」
「ほぼないですね。若干睡眠不足ですが、どこかに痛みがあるわけでもなく、目覚めが悪いわけでもありません。はたからみると至って健康なのがまた厄介です。薬の組み合わせが悪いとかありますか?」
「それはないと思います。『読書』と『資格勉強』は、それぞれ別の箇所に作用するはずですからね。」
「資格勉強といいつつ最近はあまりできていないのが正直なところです。勉強しろと人に言われたことはないんですが、今はそういう状況なんですよ。過剰摂取によるアレルギーみたいなもんでしょうか。」
「『資格勉強』の効果は本当に人によります。効く人にはかなり効くし、その逆もまたしかりです。どちらが良い悪いではなく、ね。摂取はやめて様子を見ましょう。遡ると過去に『音楽』『絵画』なんかも処方しましたが、そのあたりが欠けている感じはありますか?」
「欠乏してます。ただ、そこまで薬漬けになるのもどうなの?っていう抵抗もあるので。処方してもらうにしても、2つくらいに絞っておきたいです。」
「お察しします。でも時には物質的な考え方も大事かなと思いますよ。飲みたい飲みたくないを含め、人間の感情は全て単なる化学反応です。そう考えると少し肩の力を抜けるのでは?」
「それもそうですね。」
「わかりました。そしたら今回は『読書』と併せて、新しく『希望』を処方しましょう。」
「でっかいの来ましたね。そして初めてですね。どういう風に効くんですか?」
「何パターンかあるのですが、Dさんに合致するものには、実は幸せに関する思考化学反応を一部阻害する作用があります。信じられないかもしれませんが、人によってはそれだけで実は希望持てるんですよ。Dさんは、そう、それに当てはまると思うんです。」
「まわりくどい薬ですね。希望を直接感じられる薬は無いんですか?」
「今のところ、ありません。希望に万能薬はないんです。」
「哲学的ですね。」
「化学的、とも言えますね。この化学反応があれば希望を感じられる!という絶対的な化学反応が、見つからないのです。だからこういう捻りの効いた薬になっちゃうわけです。」
「理解しました。とりあえず試してみます。何かあったらまた来ますね。」
「また生きる意味が足りなくなったらすぐ来てください。あまり間が空いてしまうと、取り返しのつかないことになりますからね。」
「その通りですね。気をつけます。」
「はい。お会計と受け取りはいつもと同じですので。では、お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。 」