乱数生成5
「ああすまん、ちょっとどう言うべきか考えててな」
集中力を集中する。
「まあ単刀直入に言うか…俺は今、精神的に弱ってるんだ。どうすればいいと思う?」
Sはため息をついた。画面越しでは普段より大きく聞こえる。
「L。お前まさか会った人全員にこういう話してんのか?」
「会うというか…まあ、信頼できる奴ら限定だな。つってもしばらく連絡取ってなかった奴らばっかだが」
「あのなぁ…そもそも陰気臭い話を聞かされるのは面白くねーんだよ。そんな話題をしばらく音信不通だった奴に吹っかけられてみろ。よく煙たがられずに済んでるよな。感謝しろよ奴らに。俺にもだ」
「あまり向こうの都合は考えたことがない。その余裕もないというべきか。こっちはこっちで限界だからな」
「どこまでも自分勝手なやつだ」
「で、どうなんだ」
Sはケッと笑った。
「お前の細かい事情に気を配ってられるほどこっちも暇じゃねーよ」
Lは黙ってみた。Sは沈黙を嫌う性格だ。こちらが黙っていれば勝手に言葉を継ぎだす。
「…あのなぁ」
Sは頭を掻きながらカメラから目をそらした。
「まあ、お前のことだから、心当たりはあるんだよ。でも俺はお前じゃない。お前の事情を詳しくも知らない。勝手なことは言いたくねーんだ」
Lは苦笑した。今更何を言いやがる、今さっき散々一方的に諌めてきたくせに。
「俺が俺のことを一番よく知っている?そんなのは幻想だ。お前なら分かっていると思っていたが」
「しかしSNSを知ったホモ・サピエンスとはまあ面倒なもので、知ったように己を解説されることを嫌がる。そういうめんどくせー領域には踏み込みたくねーんだよ」
「じゃあこういうのはどうだ」
Lは画面に映るSの顔から目を逸らし、カメラを見据えた。視線をSにぶっ刺す。
「俺に配慮した薄っぺらい言葉なんて糞食らえだ。お前の勝手な解説でいい。何も知らない奴に配慮を期待するほどこちらも落ちぶれてはいない。お前が勝手に構築した俺の分析、お前にとっての俺の物語、それを聞かせろと言っている」
友人は一番近い他人だからな、と付け足しそうになったが、それは言わない方がカッコいいよな。
SはLを直視した。
「どうせお前のことだ。ブログもあるし本もあるしずっと自室に引きこもってても大丈夫とか思ってんだろ」
Lは何も言わない。
「甘い。甘いなあ、甘すぎる。お前にはそんなのは無理だ、お前はミーハーすぎる。いい加減それを認めろってことだ。まずはそれから。そういう自分を許せとは言わない。そういう自分に不満なら、自分を守るためではなくー」
「ー自分を破壊するために動け、か」
「なんだ、覚えてんじゃねーか」
Sの口元に得意げな笑みが浮かんだ。