違うブログ

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ある会話

<2020年3月14日公開>

 

「結局、来週の旅行は中止しないの?」

「うん、決行。行き先は人少ないって話だし、飛行機めっちゃ安くなってるし。学生最後だし」

「そっか」

Sはそう言ってインスタントコーヒーを啜った。

この会話は二度目である。つい数日前、自分たちがそれぞれ控えた旅行を中止すべきか議論をした。蒸し返される話題で楽しいものはあまりない。コップを握る手に少し力が入る。

Sは友人たちとの旅行をキャンセルした。企画したのは私だし、こういう時に中止を提案するのは私の責任でしょ。他の誰にも言い出せない。Sはそう言っていた。でも、誰からも提案がなかったってことは、みんな行きたいと思ってたってことかもしれない。Sはそれを潰したのだ。でもSはそれを自身の英雄譚として語っているように見えた。気に食わなかった。

「結局さ」二度目のSはコーヒーに話しかけた。「個人の判断に委ねられてる部分が大きいじゃん?でも、事態はもはや個人的な域を逸していると思うの」

ああ、そういうことか。私は個人的なレベルでしか物事を考えられない、社会の一員としての良識に欠けるってことが言いたいのか。

「そうかもしれないけど、私たちが旅行したって人に迷惑はかけないと思うよ?飛行機ガラガラだし、まだ入社してないから会社に迷惑をかけることもない。家族に対する責任は人によってはあるかもしれないけど、私は一人暮らしだし」

コーヒーを啜る。

「それに、これだけ全国で発症があるのなら、もはやどこにいたって同じだと思う。罹る可能性が決行しようがしまいがあまり変わらないなら、旅行したっていいんじゃない?」

Sは私をみた。彼女の感情を目から推測しようとしたが、自分の妄想が反射してくるだけだった。私が旅行に行っていることへの嫉妬?正義を盾取った復讐みたいなもの?ダメだよ、Sに私は止められないよ。さっき、個人の判断に委ねられてるって認めたよね。

「そうね」

Sは結論が出たかのようにコーヒーを飲み干した。

「たとえ日本政府であっても、あなたを止めることはできないわ」