見ました
※フィクションです。
SNS上での自分のふとした投稿に、見知らぬアカウントから返信がきた。返信の内容は以下のようなものであった。
「あなたの投稿を見ました」
それだけである。
そのアカウントの投稿を見にいった。数ヶ月前に開設。フォロー数はゼロ、いいねの数もゼロ、被フォロー数はいくつか。基本的に返信のみ行っており、全ての返信が同じだった。感想を投げるでもなく、感情を露呈するでもなく、ただ同じ一文を色々なアカウントに対して投げつけていた。
「あなたの投稿を見ました」
システム上、返信するには投稿を見なければならないので、内容的には全く不自然ではない。意図は掴めなかったが、無視することにした。
しかし、四度目の「見ました」が来たあたりから無視できなくなってきた。ロボットアカウントなら二度目で躊躇なくスパム通報していただろう。しかし、宛先の投稿の内容、返信の時間、返信の間隔、その全てが不規則で、予定的なルールに従って自動返信を行っているようには見えなかった。通報を行うところには「攻撃的な内容を含む」などの具体的な理由を選ぶボタンがあったが、このアカウントはいずれにも該当しなかった。
このアカウントが人によって操作されているとしたら、一体なんの意味があるのだろう。ブロックしても良かったが、何かがそれを阻んだ。そして試しにメッセージを送ってみることにした。
「何ですか?」
即座に返事が来た。
「事実です」
「はい?」
「私があなたの投稿を見たのは事実です。それが不快ならなぜ全世界に投稿を公開しているのですか」
まあ、事実ではある。実際、このアカウントの行動の何が不快なのだろう?考えろ。
「いちいち通知で報されるのが不快なんです。ストーキングされてるみたいで」
「フォロー・被フォローという仕組み自体がストーキングなので、そこに問題意識をお持ちなのであれば、あなたがこのSNSをやっていること自体がおかしいと思いますが」
その通りであった。数分閉口していたら続けてメッセージが来た。
「例えば私があなたの返信は不快だと直訴したらあなたは無条件でアカウントを消すのですか」
「場合によります。私が誤っているとしたら、それは引き下がるしかありません」
「あなたの正誤を判定するのはあなた自身ということですか」
「私が誤っていると納得させられれば、という意味です」
「ではこの場合、私があなたの投稿を見たのは事実であり誤りではないので、私は引き下がらなくて良いのですね」
「私はあなたにアカウントを消せと言っているわけではありませんよ。先ほども言いましたが、私は通知が来るのが嫌なんです」
「それはミュートやブロックしていただければ解決します。それに関してはこちらがとやかくいうことではありませんがーー」
「この後そうするつもりです」
「ーーですが一つお伺いしたいことがあります。あなたは他の方からのいいね等の通知を受け取っていて、その通知は別に不快ではないのですよね。それとこのアカウントの返信との差はなんですか?」
さっきは詰まったが、回答の準備は完了していた。
「必要とされる注意のレベルに差があります。いいねと異なり返信は返信を必要とする場合がありますから注意が必要です。用もないのにこちらの注意を引き付けるのはやめていただきたい」
「返信への返信は要求しておりません。こちらの行動を"用がない"と表現されていますから、その旨はご理解いただいていると思います。ならばこちらには特に落ち度はないように思いますが」
あー、めんどくせえ。なぜ最初からブロックしなかったのだろう。
「議論に終わりが見えませんね。最後に一つだけ聞いてブロックさせていただきます。あなたは一体何がしたいのですか?」
「そうですね」
言葉が続くまで少し間が空いた。
「強いていうなら、投稿を見て、それについてあれこれ思い、かつ何も言わないことが目的ですね」