ふと思ったんだけど

言葉にすれば、何か分かるかもしれない

嘘みたいな嘘の話

僕はスーツに眼鏡のどこにでも居そうなサラリーマン齢53である。仕事の関係で関東の片田舎に居る。片田舎の為車は必要不可欠だ。買い物をするにも仕事に行くにも、車有りきの生活。高齢者にとってこそ車は必要不可欠なのかもしれない。ただ、高齢者だけの問題ではないが、給油口開けっ放しというのが割とおじいちゃんに多い。そして僕は大概信号待ちでそれに気づく。クラクションを鳴らしてもパッシングしても別の意味で捉えられてしまうので、まず降りて給油口を閉める。給油口を閉めた音で何事かと不安になるので、運転席まで行って、開いてました、閉めときましたよと伝える。謝礼は1万からねと伝える。冗談だが伝える。このフォローをしなければ、信号待ちで突然後ろの車のやべー奴が降りて来て、自分の車の後ろの横をぶん殴って戻っていったというサイコ野郎伝説になってしまう。

そんなある日のことだ。相も変わらず見つけてしまった、お決まりの信号待ちで。車は軽。給油口が見事にパッカーーンと開いてる。まるでこの大空に翼を広げ~なんて歌っているかのごとく。閉め方が甘かったかな状態ではなく、完全に完璧に忘れているパッカーーン。僕はいつものように車を降り、まずは給油口をパタンと閉め、運転席に向かった。片田舎だから周りには誰も居ない。遠くでカラスが鳴いている。午後3時32分。

コンコンと窓をノックし、いつものように、こちらを見た運転手のおじいちゃんに爽やかな笑顔を送り、左手を水平に、掌を地面に向けた形に、つまりアイーン的なポーズで、手を上下に動かし、窓を開けてくれというジャエスチャーと共に、開・け・てと口パクをするつもりだった。しかし僕の口は数秒前の給油口のようにパッカーーンと開いたままになった。

・・・誰もいない!?運転席に。

視界の左に人影を感じた。いや正確には人影なんてな曖昧なものではなく人そのものだ。車の外から、後部のスペースにうつぶせの裸体を捉えた。髪型は所謂ショートボブ。身長は160くらい。背中の肩甲骨やおしりの感じからして女性のはずだ。席で隠れて胸の膨らみは確認できない。何故か性別の確認をする自分がいた。

そしてそれは突然やってきた。ダン!とかはっ?みたいな。何にがダン!って。ドンじゃくてダンって。ズドンてな速度でじゃなくて、強めでダン!って。いやアレ?アレレって。何がアレって膝だ。助手席のドアの角が僕の膝にダン!だ。待ってる僕の膝にドアがダン!だ。えげつねぇーほどダンだ!でかがむわけ。痛さで前かがみになるわけ。かがむって頭でるわけ。くの字なわけ。そこにダン!だ。左からのダン!だ。不意打ちのダン!だ。えげつねぇーほどダンだ!そこで意識は途切れた。

 

 

はっとして目を覚ました。何故なのかわからないが唐突にだ。

ちょっとガソリンの匂い、振動音。車の内装にしか使われないグレーの生地。車の中に寝転がっている。

ふと、自分のすぐ後ろに人体の熱を感じた。息が聞こえる。寝息だろうか。誰の?あの女性か。女性かどうかもわからない。でも確認するために振り返りはしない。いや、振り返ってはいけない、そんな気がした。目の前に相手のものと思われるバックがあるが、開けて中を見る気などない。身分証明的なものがあるかもしれないが、それもまた見てはいけないもののように思えた。この人は『知らない人』でいたがっている。女(仮)としよう。

と同時に自分が裸なのに気づく。全裸。は?ということは、二人の男女(仮)が車で裸?犯罪をしたつもりはないが犯罪として処理される可能性がある、そんな状況だ。何の犯罪かもわからない。しかし裸とはそういうものだ。指名手配者の心理とはこうなのだろうか。いや、知りたくもない。僕は犯罪なんかしていない。むしろ被害者だ。でも縛られてもいない。相手は何を考えているのか。かといって、今この瞬間逃げ出すわけにもいかない。完全にこいつイカレポンチだと認定されて全裸のままお縄頂戴だ。全然嬉しくない。どうしたらいいのか分からない。

落ち着かなければならない。のどが乾く。何故急に。がぶ飲み。水をがぶ飲みしたい。ペットボトル3本くらい。

何れにしても、女(仮)が起きるのを待つしかない。落ち着いたと感じると同時に誰なんだと疑問が沸き起こる。誰なんだ?生きてるよな?

すると澄んだ女(仮)の声がした。

「少し落ち着いたか。そのまま動くな」

喉が渇いた。背中の汗で貴重な水分が体から奪われていく。畜生。

「こちらを向かないで、そのままで」

頷く。相手には見えないのに。

「ぼくね、人の思考が聞こえるんだ」

あ、伝わってたのね。

「他人のことは分かる、こっちのことをどう思ってるかまで全部分かる。それゆえに自分の意思を伝えられない、意思表示が苦手。うまく伝えれない、うまく言えない」

言ったら他人にどう思われるかという防衛的なブレーキがあるのだとしたら、“言えない”のではなく“言わない”のでは?あるいは、勝手に苦手と自ら思い込んでるのではないか…という風に、いつもなら思ってしまうが。確かに、相手の声が聞こえるとなると話は別かもしれない。

「そう、別だよ」

口に出さなくても聞こえてるのか...じゃついでに言ってしまおう。いつもならこう続けたいところだ。『眠い』や『眠たい』ではなくて『寝たい』や『眠りたい』って言ってみる。『お腹すいた』ではなくて『何か食べたい』って言ってみる。自分の状態のお知らせではなくて、自分の行動への意欲をお知らせしてみてはどうか。それが意思表示ってことなんじゃないか。

「お喋りだね。凄い。会ったこともない他人...会って間もない他人に対して、それだけあれこれ思えるのが」

まあね。でもこれは僕の、僕自身の説明に由来しているのであって、君には適用できない。君が何を考えているのか、僕には全く説明できない。何の意味があるのか、この行動に。

「説明ねぇ…ぼくが欲しいのは、誰かが聞いてくれてるっていう感覚。でも、みんなの思考が聞こえるとそうはいかないんだ。みんな比較して生きてて、その中で違いを感じて、感じるだけで終われない。違いについて勝手な説明を始める。みんなぼくを説明して片付けるのに必死。それに必死で読んでない・聞いてないのが分かっちゃう」

世の中を簡単に説明しようとする人は確かにいる。世界はこうだと勝手に説明している、誰の教えもないのに。そのくせ他人が己を説明すると怒る。個性とか気にして。

「だから、そういう人たちを、ありえない状況、わけのわからない状況、ぼくだけに意味が通じる世界にトラップするんだ。そうすれば、何を言われても”この人は何も理解できてない”って心理的に斬れるし、みんな静かになる。そんな静かなあなたたちをぼくは愛しているんだよ」

愛してるわって、そんなそんな、照れちゃいますぼくたち。...でも。でもそれは、可能性に対して閉じているのでは?本当はいいアドバイスなのかもしれないのに、それを”理解していない人”が言ったことにしてしまうのは、どうなんだ?

「話しても、聞いてもらえない、知ってもらえない、覚えててもらえない。ぼくの話は勝手なコメントで上書きされちゃう。同じことの繰り返し。だからぼくはコメントを欲してない。アドバイスも要らない。君にはぼくを救うことはできない。そういう風に斬ってる。何も解決してくれないって思ってれば何も期待しなくて済むからさ」

その通りだ。僕一人には君を救うことはできない。

「慰めようとしてくるのが普通だと思うけどね?」

諦めてるわけじゃない。もっと使える奴を探せばいいだけの話だ。できる奴を探せ。どうやって探そうか、心許せる相手。TwitterFacebookSNS。ブログ。数撃ちゃ当たるって。無料でいいからはじめとこ。はてなでやりゃいいじゃん。☆くらいなら付けに行くし。うまくいけばできる奴が見てくれる、聞いてくれる。僕なんかより100倍価値のある人達が力になってくれるよ。うまくいかなくても生きてるじゃん。それで十分でしょ。休んでブログでいいでしょ。夜更かしブログでいいでしょ。広める手助けくらいならできるかもね。ほんの少しくらいならできるかもね。無理かな。やっぱ無理かも。僕は何にもできないかも。本当に使えない奴かも。でも生きるは続ける、何の解決もしてないけど

「それでいいよ。ぼくはぼくの嘘を、あなたはあなたの嘘を生きようじゃないか」

 

 

はっとして目を覚ました。信号は青で、軽自動車は彼方へと消えていこうとしていた。給油口が見事にパッカーーンと開いたまま。僕は用済みのペットボトルのように道端に立ち捨てられていた。赤信号が僕らを切り離した。

逃げたのか?逃げたのはどっちだ。まあいいや。ちゃんと下着のパンツもパンツと呼べるズボンもスウエットも履いている。時計もある。午後3時32分、変わっていない。道という、トラベルを連想させる場所で、時間旅行すなわちタイムトラベルを連想させる場所で、タイムリープは起きたんだ。

膝が痛い気がする。頭痛が痛い気がする。精神だけ過去に垂れ流した気がする。時間のイナバウアー。もう無理!色々盛沢山過ぎて疲れた。車に戻ろう。細かい内容を省けば、そう、一度車から降りて戻ったってだけの話。都合の良い省き方だがそういうことだ。幸い後続車もなく二次の災害は免れられる。僕は足を引きずって車へ戻った。

その日から僕は給油口が開いていても無視することにした。ただ、見て見ぬふりはできない僕は、どうぞ誰にも何事もないようにと、静かに祈ることにしている。

 

第2のRira、①-⑤全部

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