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結婚式じゃない方の【3/3】

sourceone.hatenablog.com

 

<真北の場合>

成人式の後の同窓会の後、真南をタクシーで家まで送っていったんです。立食で疲れたし割り勘すればそんな高くねーだろって理由で僕が提案しました。彼女の家まで行って、僕はそこから歩いて帰るつもりで。僕も彼女もちょっと酔ってました。タクシーの中ではあまり会話はありませんでしたが、別に眠いわけでもなく、お互いに窓の外をぼんやりと眺めていたと思います。立食会の時に話したし、今更何か追加で話すこともないか、とその時は思って油断してました。で、彼女の家に着く5分前くらいかな。ねえと声をかけてきて、僕がそっちを向いたら、真南がキスしてきたんです。僕の頰に。

しばらく(何秒か何分かわからない、ともかく長く感じた)、お互いを見つめたまま動けませんでした。彼女も僕も、今何が起きたのか分かっていなかったような感じでした。最初はイタズラかと思いました。というか、僕は今のがイタズラであることを期待して、照れ隠しなり何なりのフォローを待っていました。でもそれがいつまでたっても来なかった。だんだん照れくさくなってきて彼女の目を真っ直ぐ見るのをやめ、ほんの少しだけ目線を逸らしたら、彼女が泣いてるってことに気づいたんです。わんわんじゃないけど、こう、一筋だけ流れた跡があるみたいな。僕の表情が変わったんでしょうね、彼女もハッとしたらしく、そのままお互いに顔を背けました。先に目を逸らしたのは彼女のほうでした。

結局そのあと、僕らは会話をしませんでした。あの時の僕には彼女の行動が理解できませんでしたが、今なら彼女があそこで涙した理由を想像できなくもありません。僕らは幼馴染という関係に縛られていて、別の可能性に対して閉じていました。そしてあの時、パンドラの箱を無理やりこじ開けてしまって、大事なものが出て行ってしまいました。彼女は頭がいいので、もう二度と元の関係には戻れないってことを、そこで即座に悟ってしまったんじゃないかと思います。僕はアホでその時応急措置ができませんでいた。かといって今更聞けませんし、向こうからもコンタクト取りづらいと思います。こういう終わり方はよくないなと思いつつ、他にどんな終わり方があったのか、僕にはわかりません。そういうのも運命なのかもとしか。恋しなくても一緒に居られる関係性ってのはないことはないでしょうけど、今の僕らにはそんな贅沢は許されていません。ただ一つ、どうしても忘れられないこと、手放せないものがあります。薄暗いタクシーの車内で少しだけ涙している真南を、僕はあの時初めて、心の底から美しいと思ったのです。

 

<終>